2016年7月24日日曜日

【学問のミカタ】だめよ〜だめだめ、サンゴの移植でさんご礁は復活しないの

 「生命の科学」ほか担当で、サンゴの研究をしている大久保です。だいぶ古いギャグですが、それはさておき、夏本番がやってきました。海へのレジャーに忙しくなる季節、皆さん、サンゴの移植って聞いたことありますか?サンゴの移植とは、陸上で行われる挿し木のように、海の中にサンゴを植えて増やそうとする方法です。現在、沖縄県では、さんご礁を復活させよう!というスローガンのもと、ダイビングショップによってサンゴの移植ツアーが行われています。過去に上映された「てぃだかんかん」という映画では、沖縄県のさんご礁を復活させようという美しいお話となっています。また、沖縄県の公共事業としても、我々の税金を使ってサンゴの移植事業が行われています。県の発表によると、2015年までに5万本の採取苗が1haの海域に植え付け、2016年までには15万本の採取苗を植付けて、3haのサンゴ群集をつくるそうです。(http://www.icriforum.org/sites/default/files/GM29_4_1_2_1_Okinawa.pdf) 
でも実は、今行われているサンゴの移植では、さんご礁は復活しないのです。

では問題です。
①なぜ移植でさんご礁が復活できないのでしょう
②移植の苗はどうやってつくるのでしょう
③この公共事業には私達の税金がいくら投入されているでしょう

答えは、サンゴの産卵の動画と、画像の後に!




答え
①今の環境では、移植したサンゴがあまり生き残らない
今までの研究をみれば、サンゴを移植した後、長期間にわたってサンゴが生き残る確率は低いことがわかっています。そもそも、サンゴがいないところには、いない理由があります。サンゴが生き延びる環境がないのです。また、移植したサンゴが卵を産んでも、自然界ではほとんどが死亡すると考えられています。サンゴが育つ環境を取り戻さない限り、移植サンゴもその赤ちゃんもほとんど育ちません。

②自然のサンゴを折って、または、既に折ったものを増やしてつくっている
サンゴを折ると、サンゴが傷つきます。するとサンゴは、傷口の周りにある卵や精子を吸収して傷口を直します。サンゴの卵には沢山の脂があるので、我々が鶏の卵を食べるように、サンゴも自分の卵をエネルギー源として利用するのです。したがって、サンゴを折ると、傷口を直すために卵が吸収されてしまい、次の年に産む卵が少なくなったり、卵を作らなくなったりして、産まれてくる子供の数が減ってしまうのです。サンゴを増やす試みが、逆に、サンゴにストレスを与えているのです。

③サンゴの移植に使われた税金は初年度だけでも年間2億円、その後も年間数億円が使われた
そもそも、国と沖縄県は、移植でサンゴ礁を復活させるとうたう一方で、同規模またはそれ以上の面積の泡瀬干潟や辺野古大浦湾といった貴重なさんご礁を破壊しています。まず、この矛盾点を説明するべきです。そして、上記その他の理由により移植でさんご礁は復活しないのですから、膨大な額の税金を移植へ支出するよりも、むしろサンゴが死亡しないような環境を作るための、赤土や生活排水の流入防止といった費用へ役立てるべきです。

 私は、ビジネスとしてサンゴを採取するのを否定しません。生活のために自然資源を利用してお金を稼ぐことは必要だからです。例えば、村おこしのために、ある村に小さなサンゴの畑をつくる、サンゴの移植ツアーを開催するならば、観光・レジャーによる経済効果が見込まれるでしょう。それなら税金を使う意義もあると思います。また、自然のサンゴを持続可能な範囲で採取して、そのサンゴを増やして、アクアリスト向けに販売したりすることも良いと思います。海に植えて死亡するよりは、大量の移植苗をアクアリスト向けに販売した方が、東南アジアで密漁され輸入されるサンゴも減るかもしれません。

 しかし、「移植によってさんご礁が復活する」と言ってサンゴの移植苗を販売したり、その大義のもとに税金で大規模な公共事業を行ったりすることには反対します。なぜなら、私達はさんご礁が復活すると信じ、善意の気持ちでサンゴ苗を購入し移植するからです。それでサンゴが増えるならまだ良いですが、先述したように、さんご礁は復活しないのです。

 もうひとつ、近年サンゴの研究者が言い始めて困っていることがあります。「移植や移植苗づくりは、サンゴを保全しようとする気持ちを呼び起こすための啓蒙活動になる」というものです。サンゴを研究する人が、公的な場でこのような意見を述べているのを読んだ時には大変驚きました。なぜなら、この主張は、全くもって移植問題に関する論点のすり替えだからです。移植活動でなくとも、サンゴを保全しようという気持ちを呼び起こす活動は他に沢山あるのですから、この主張は通りません。よく考えれば誰でも、この論点のすり替えには議論する価値がないことが理解できます。また、やはりサンゴの研究者が、辺野古大浦湾の埋め立てに際して、サンゴを他の場所へ移植すればよいというとんでもない意見を出したことから、移植さえすれば海を埋め立てても良いという展開にもなっています。研究者や学者が軽々しく根拠のない意見を述べると、政策が大変な方向に動いてしまうという悪い例です。ダイビング雑誌などに引用されたり、ビジネスに利用されたりする可能性にも考えが及んでいないのです。さんご礁の復活を信じてサンゴを植え続けるという純粋な気持ちは大切ですが、実際にさんご礁の復活につながらないことをしっかり伝えるべきです。

 今回のブログテーマである「学問のミカタ」から考えると、「サンゴの移植」においては、一見美しく情緒的な話に揺り動かされて問題の論点を見失うのではなく、データに基づいて物事を客観的にみる「学問的見方」が大切であることがわかります。そうかといって、学問的見方を持っていそうな研究者・学者といわれる人の言葉を素直に信じてはいけません。彼らも人間なので、周りとの関係や立場からNOYESということが多々あるからです。しかし、そういう意見の正否を考えるときに、知的思考力が必要となるのです。

 私は、小さな頃から勉強をあまりしない子供で、高校時代はみんなで一斉に受験勉強をするのが気持ち悪くておかしいと思って勉強せず、AO入試の先駆けのようなもので「受験勉強に反対」という論文を書いて大学に合格しました。運良く大学でやりたいことが見つかったので、大学院に進んでから専門の勉強を一生懸命やりましたが、「教養を身につける」という意味での勉強はしてきませんでした。恥ずかしながら、教養の意味をなんとなく理解し、人間形成にとって知的思考が本当に大切なものだと気づいたのは、今の大学で働き始めてからです。それは、人文社会系でも、学問的蓄積の長い分野で仕事をされている先生達に囲まれているおかげです。普段の会話から教授会に至るまで、「さすがだな!すごいなあ!」という発言がかなりあって、考える、知的思考をするとはこういうことなのかと、とても勉強になっています(気づくのが遅いよね!)。サンゴの移植についても、学生時代には、データを出して論文を書くというテクニカルな作業が多かったのですが、その研究が社会に与える影響を考えて、業績とは関係なく日本語の論文を書くようになったのはここ数年です。理系では日本語の論文はまず業績として評価されませんが、それでも構わないのです。移植の大規模な公共事業が始まったこともありますが、文系の大学で、深い教養と高い知的思考力をお持ちの先生達と一緒に仕事をする中で、自分の意見を多少まとめられるようになったことが大きく影響しています。

 あなたにとって、教養はどんな強さを与えてくれるものですか?まだ分からない人もいますよね。だって、テストの点と違って、目に見えにくいものだから。でも、少しずつ、自分が創り出すものに表れてくると思います。私は、気づくのが遅かったけど、40歳の今からでも自分を磨くために、これから一生懸命教養を身につけたい。そのために、周りの教養ある先生からたくさん学び取り、考える力を養うための本を読みたいと思います。あなたもこれからたくさんの問題にぶち当たると思います。そんな時、戦う力を与えてくれるのが、あなた自身の知的思考力であり、教養なのです。夏休み、体に汗をかくだけでなく、脳にも汗を書いてみませんか?
  
【学問のミカタ】 7月のテーマ「夏」
・経済学部ブログ 「試験対策として重要なのは・・・!?
・経営学部ブログ 「暑い季節の悩みは何ですか?
・コミュニケーション学部ブログ 「なつのいちにち
・現代法学部ブログ 「東京物語と夏、老いた親の居場所

2016年7月20日水曜日

体験授業―雅な古典遊戯「投扇興」を楽しむ

 日本文学の古典分野を担当しております、上野麻美です。私の担当する「総合教育ワークショップ(日本文学)」では「くずし字いろは入門」というタイトルで、変体仮名を読む授業を行っています。

 変体仮名(くずし字)は、一般にはもう使われなくなった古い仮名文字であり、古文書の研究者や書道を嗜む人といった、ごく限られた人々の間でだけ、読み書きがされています。しかし、老舗商店の看板、名所旧跡の歌碑や句碑など、現代の私たちが目にする変体仮名は意外と多いのですよね。こうした身近な変体仮名を読むことによって、日本の古典文学に親しみ、教養を深めようというのが、この授業の趣旨です。

 授業では、一通りの変体仮名が読めるようになった時点で、『源氏物語』の巻名を変体仮名で記した教材を使い、力だめしをします。実はこの教材は、投扇興の点数表になっていて、巻名が読めるようになったら、受講生に実際に投扇興を体験してもらうことになっています。

 さて、この「投扇興」を皆さんはご存知ですか?テレビで見た人もいるかもしれませんね。「さんまのまんま」という番組に、女優の宮沢りえさんが出演したさい、投扇興を紹介していました。

 投扇興は、小さな的に向かって扇を投げて当てる、という優雅な遊びです。江戸時代に大流行し、人々が熱狂するので幕府から禁止令が出るほどでした。その後、花街でのお茶屋遊びの一つとして、あるいは寄席の色物芸として、細々と残ってきました。しかし、近年、古典遊戯として流派の確立が進み、「粋な大人の遊び」として多くの人々が気軽に楽しめるように、普及活動が行われています。

 「くずし字いろは入門」では、去る7月15日に、「都御流(みやこおんりゅう)」という流派の家元でいらっしゃる小林粋扇先生と、そのお弟子さん方にお越しいただき、投扇興の歴史や遊び方についてご指導いただきました。

 掲載写真は、決勝戦に残った二人の学生の対戦の模様です。真ん中の和服姿の方が、家元小林粋扇先生です。ほとんどの学生が、投扇興で遊ぶのは初めての体験でしたが、家元とお弟子さん方の懇切丁寧なご指導により、初心者でも楽しく学ぶことができ、充実したワークショップとなりました。

 都御流の方々には来年1月にもご指導ただく予定です。受講者でなくても見学は可能です。興味のある方は、上野までお問合せ下さい。

2016年7月15日金曜日

TKUサイエンスツアー「音を科学する」リオン株式会社見学

「地球の科学」ほか担当の新正です。われわれ理科教員グループは、2011年度の「サイエンスカフェ+」以来、サイエンスカフェ、サイエンスツアーを継続的に行ってきました。今年度からは、近隣の施設を尋ねるツアーをということで、2016年度第1回のツアーを7月14日(木曜)に開催しました。


3限終わりに学習センターで集合。空が暗くなり雷も鳴り出す中出発しました。大学を出て徒歩で西へ向かいます。なんとか強い雨に降られることなく、リオン株式会社本社に到着しました。
講義室へ!

まずミニ講義を受講しました
まず、「音を科学する」と題したミニ講座を受講しました。音波とは何、音の伝播速度、dB(デシベル)の意味など、様々な音に関する題材を、少し裏話を交えつつ講述いただきました。

そして2班に分かれてそれぞれ見学に移ります。無響室、残響室、そして音響科学博物館

無響室は全面がグラスウールで覆われ、外部からの振動も伝わらないように設計された空間です、入室後まず皆黙って「真の静寂」を経験します。その後声を出したり、手を叩いたりで反射のない空間での音の伝わり方を感覚を持って経験しました。なかなか特殊な雰囲気があり、「普通がいかに良いか」という感想をもらした学生もいました。

逆に残響室は、音がこだまのように帰ってくるので、それぞれが色々な音を発して楽しみました。最後に三三七拍子を、とやりかけたのですが、あまりの残響のやかましさに中断して部屋を退出しました。

音響科学博物館では、種々の音にまつわる物品を見ました。迫力のある蓄音機に目を奪われた参加者もいました。

会社の主力製品の一つ、補聴器も最新のものから一番初期のもの(本体が大きな金属の箱で弁当箱、と呼ばれていた由)を見せていただきました。比較するといかに小さくなったか、ファッショナブルになったかがわかります。

講義室に戻って、質疑応答とまとめをして見学を終えました。

著名な補聴器のみならず、騒音計、地震計といった音や振動に関する測定機器、さらにクリーンルームの微粒子を計測するパーティクルカウンターなど非常に幅広い分野についてのお話を伺い、あっという間に時間が過ぎた印象です。学生には普段意識しない製造業の考え方や面白さが伝わったのではないかと思います。

とても魅力的な見学をコーディネートくださったリオン株式会社の藤岡様、仙波様、矢嶋様、堀様に厚く御礼申し上げます。

本社前で記念写真

音響科学博物館見学」(2014年6月)